「動画制作を検討しているが、著作権はどのようになるのだろうか」
「動画制作を外注した場合、著作権は誰のものになるのだろうか」
と気になりませんか。
企業の広報や採用、マーケティングの現場では、動画の活用が検討されることがあります。
自社サイトへの掲載、SNSでの発信、展示会や営業資料での利用など、動画は幅広い場面で使われています。
一方で、動画は文章や画像以上に著作権関係が複雑になりやすいコンテンツです。
音楽、映像、画像、出演者など、複数の権利が同時に関係するため、知らないうちに法的リスクを抱えてしまうケースもあります。
本記事では、企業が動画制作を行う際に最低限押さえておくべき著作権の基礎と、実務上の注意点を分かりやすく解説します。

著作権とは、思想や感情を創作的に表現した「著作物」を保護するための権利です。
小説や音楽、絵画だけでなく、一定の創作性が認められるものであれば、幅広い表現が著作物として保護されます。
著作権の特徴は、特別な手続をしなくても、著作物を創作した時点で自動的に発生する点にあります。
登録や申請をしていなくても、法律上は権利が発生しているため、企業活動でも注意が必要です。
動画は、映像の構成や編集、カメラワークなどに創作性が認められる場合が多く、原則として著作物に該当します。
企業紹介動画や採用動画、商品PR動画なども、例外ではありません。
「業務用に作った動画だから」「宣伝目的だから」という理由で、著作権が問題にならないわけではない点に注意が必要です。
著作権には、大きく分けて「著作権(財産権)」と「著作者人格権」の2つがあります。
著作権は、複製や公衆送信などをコントロールする権利で、契約によって譲渡することも可能です。
一方、著作者人格権は、著作者の名誉や感情を守るための権利であり、原則として譲渡できません。
企業が動画を自由に使えると思っていても、編集や改変が著作者人格権侵害になる可能性がある点は見落とされがちです。
動画では、著作権とは別に「著作隣接権」が問題になることがあります。
これは、実演家やレコード製作者など、著作物の伝達に関わる人を保護する権利です。
例えば、ナレーターや出演者、演奏者が関与している場合、著作隣接権への配慮が必要になることがあります。

これは、本人の承諾なく、その容貌や姿を撮影・公開されない権利を指します。
社員や取引先、来訪者などが動画に映る場合、たとえ悪意がなくても、無断利用が問題になることがあります。
これは、有名人などの肖像が持つ経済的価値を保護する権利で、広告やPRでの利用が主な問題になります。
企業動画で著名人を起用する場合には、契約内容を慎重に確認する必要があります。

著作権は、動画を制作した時点で自動的に発生し、原則として「創作した人」に帰属します。
社員が業務として動画を制作した場合、一定の要件を満たせば「職務著作」として法人に著作権が帰属することがあります。
ただし、すべてのケースで自動的に法人に帰属するわけではありません。
契約内容や社内規程の整備状況によって結論が異なる点に注意が必要です。
制作会社やフリーランスに依頼した場合、著作権は制作会社やフリーランスに帰属する可能性があります。
企業紹介動画やPR動画は、著作権法上「映画の著作物」に該当する可能性があるのです。「映画の著作物」の著作者は制作・演出・撮影等で、全体の形成に創作的に寄与した者です。
映画の著作物については、著作権法29条1項により、著作者が映画製作者に対して製作参加を約束しているときは、著作権は映画製作者のものになります。
実務では、制作会社が企画・撮影・編集を主導する形で制作されることがあります。このような場合、制作会社が「映画製作者」にあたると整理され、著作権は制作会社に帰属する可能性があると考えられます。
ただし、「映画製作者」にあたるかどうかは、誰が製作に発意し、最終的な責任を負っているかによって判断されます。そのため、事案によっては制作会社が映画製作者となる場合もあれば、発注企業が映画製作者と整理される場合もあります。

音楽には、作詞・作曲者の著作権や、演奏者の著作隣接権が関係します。
フリー素材であっても、利用範囲や媒体が制限されているケースがあるため注意が必要です。
イラスト素材も著作物であり、商用利用や改変の可否は利用規約に左右されます。
「無料」という言葉だけで判断するのは危険です。
写真には、撮影者の著作権だけでなく、被写体の肖像権が関係する場合があります。
特に人物写真の利用には慎重な確認が必要です。

著作権侵害が指摘された場合、まず起こりやすいのが動画の公開停止や削除要請です。
動画配信サイトやソーシャルネットワーキングなどのプラットフォームでは、権利者からの申立てを受けると、企業側の言い分を十分に確認する前に、動画が非公開・削除されることがあります。
採用動画や商品PR動画の場合、公開停止はそのまま採用活動やマーケティング施策の中断につながります。
制作費や広告費をかけていたとしても、動画が使えなくなれば、その投資は回収できません。
著作権侵害が認められた場合、損害賠償請求を受ける可能性があります。
損害額は、使用期間や利用範囲、営利性などを踏まえて算定されるため、想定以上の金額になることもあります。
特に企業利用の場合、「業務として」「営利目的で」利用していた点が重く評価されやすく、個人利用よりもリスクが高くなりがちです。
著作権トラブルは、金銭的な問題だけで終わりません。
「他人の権利を軽視している企業」「コンプライアンス意識が低い企業」という印象が社外に広がる可能性があります。
採用活動では応募者の不信感につながり、取引先や顧客との関係にも悪影響を及ぼすおそれがあります。
一度失った信用を回復するには、長い時間とコストがかかる点も見過ごせません。
内容によっては、刑事罰が科される可能性もあります。

外注制作の場合、著作権が当然に委託者へ移転するとは限りません。
制作会社が著作権を保有するケースも多く見られます。
そのため、制作費を支払ったという事実だけで安心するのではなく、著作権の帰属を契約書で明確に確認することが重要です。
次に重要なのが、動画の利用目的と利用範囲を具体的に整理することです。
著作権の帰属とは別に、「どの範囲まで使用できるのか」は契約内容によって決まります。
例えば、以下のような利用が想定されるかどうかは、事前に整理しておく必要があります。
これらを曖昧にしたまま外注すると、後になって追加費用の請求や使用制限を受けるリスクがあります。
著作権や利用範囲については、口頭の説明や見積書ではなく、契約書の条文で確認することが大切です。
特に注意すべきなのは、以下の点です。
契約書の確認を怠ると、完成後に条件を変更することは困難になります。
動画制作は単なる制作業務ではなく、将来的な活用を前提とした「権利を含む成果物の取得」であるという認識が重要です。
動画は便利な反面、著作権や肖像権など複数の権利が関係し、企業にとって思わぬリスクになりやすい分野です。特に外注制作では、著作権の帰属や利用範囲を制作前に整理しておくことが大切なのです。動画における著作権の扱いで迷った場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。