「トレパクが問題になっていることがあるけれど、トレースは著作権侵害になるのだろうか」
「トレースは、どのような場合でも著作権侵害になってしまうのだろうか」
と気になりませんか。
企業のWebサイト、広告、パンフレット、SNS投稿などで使われるイラストや画像をめぐり、「トレースは違法なのか」「トレパクと何が違うのか」という話題が活発になることがあります。
トラブルの多くは、「トレースそのものが悪いのか」ではなく、「著作権のどの権利を侵害しているのか」を正しく理解していないことが原因です。
本記事では、企業が押さえるべき著作権の基礎から、トレースが問題になる具体的なケース、実務上の注意点までを整理して解説します。

著作権とは、「思想または感情を創作的に表現したもの」を保護する権利です。
難しく聞こえますが、要するに「人が考えて作った表現を、無断で使われないようにするための権利」です。
重要なのは、以下の2点です。
企業がよく誤解しがちなのが、「写真やイラストはネットにあるから自由に使える」という考え方です。
しかし、イラストや写真は、原則として著作物に該当します。
イラストは、描いた時点で創作性が認められやすく、著作権が発生する可能性があります。
写真も、構図・アングル・光の使い方などに表現上の工夫があれば、著作物として保護される可能性があるのです。
著作権は一つの権利ではなく、複数の権利の集合体です。
トレース問題で特に関係するのは、次の2つです。
トレパク問題は、このどちらか、または両方を侵害している可能性があるのです。

トレースとは、元の画像や下絵をなぞって、形を取る技法のことです。
絵を描く練習や、ラフを清書する工程など、制作現場では一般的に使われています。
重要なのは、トレースという行為自体が、直ちに違法になるわけではないという点です。
「トレパク」と呼ばれるものは、他人の著作物の表現(構図・輪郭・ポーズなど)を、そのまま、または本質的に似た形で流用する行為を指します。
問題になるのは、「なぞったかどうか」ではなく、元作品の表現を借りて、自分の作品として使っているかどうかです。

元画像の輪郭や構図をほぼそのまま再現している場合、「別の表現」ではなく「コピー」と評価される可能性があります。
この場合、元作品を複製したとして、複製権侵害が問題になります。
色を変えた、タッチを変えた、一部を省略した、という場合でも、元作品の本質的な特徴が維持されていれば、「翻案」にあたる可能性があります。
翻案は、著作権者だけが許可できる行為です。
無断で行えば、翻案権侵害となります。
著作権侵害かどうかについては、次の2点で判断される傾向にあります。
この両方が認められた場合、著作権侵害と判断されやすくなります。

素材サイトで画像を購入しても、著作権そのものを買っているわけではありません。
あくまで「一定の条件で使ってよい」という利用許諾を受けているだけです。
素材サイトの規約では、「類似作品の作成」「元画像を基にした二次制作」を禁止しているケースがあります。
規約違反は、著作権侵害とは別に、契約違反として責任を問われる可能性があります。
著作者人格権(同一性保持権)は譲渡できません。
極端な改変や、作者の意図を損なう使い方をすると、トラブルになることがあります。

もっとも分かりやすく、法的リスクが低いのがこのケースです。
元となる写真やイラストの著作権者から、トレース・翻案・二次利用を明確に許可されている場合には、著作権侵害は成立しません。
ここで重要なのは、「何をどこまで許されているか」が明確であることです。
単に「使っていいですよ」という曖昧な了承ではなく、
といった点が確認できる状態が望まれます。
企業案件では、口頭ではなく書面や契約で残しておくことが実務上ほぼ必須といえます。
すべての画像が著作物になるわけではありません。
たとえば、創作性がほとんど認められない単なる記録写真や、誰が撮っても同じ結果になるような画像については、著作物性が否定される場合があります。
ただし、この判断は非常に難しく、企業が独自に「これは著作物じゃない」と判断するのは危険です。
実務上は以下のように、
といった点に少しでも工夫が見られる写真は、著作物と考える前提で扱うのが安全です。
「著作物性がないから大丈夫」という主張は、トラブル後に通らないこともあるため、例外的な扱いにとどめるべきです。
トレース問題で重要なのは、「何を参考にしたか」ではなく、最終的な成果物に、特定の元作品の表現が残っているかどうかです。
複数の写真や資料を参照しながら制作し、
といった「元作品の本質的特徴」が再現されていない場合には、依拠性や類似性が否定され、著作権侵害と判断されにくくなります。
逆に、「複数資料を見た」と主張していても、結果として一つの作品と酷似していれば、その説明は通らない可能性があります。
企業としては、「参考資料をどう組み合わせ、どう抽象化したか」を説明できる制作プロセスが重要になります。
著作権法には「私的使用のための複製」という例外がありますが、企業の業務での利用は、たとえ社内限定でも私的利用には該当しない可能性があります。
私的使用は個人や家庭内での使用を想定しているからです。
社内資料、研修、検討用ラフなどであっても、業務の一環として作成・共有されている時点で、原則として許諾が必要と考えるべきでしょう。

制作物については、「どの資料を参考にしたか」「特定の画像をなぞっていないか」を確認する簡単なチェック工程を設けるだけでも、リスクを下げることができます。属人的な判断に任せないことが重要です。
外注デザイナーや制作会社に対しては、「写真や画像のトレースは禁止」「参考にする場合のルール」を事前に明確化しておく必要があります。契約書や発注時の指示書に一文入れるだけでも効果があります。
素材サイトや提供画像については、誰が規約を確認し、どこまで利用可能かを社内で統一しておくべきです。「購入したから使える」という誤解を防ぐためにも、確認手順を簡単にでも決めておくことが重要です。
企業の制作物では、「社内利用だから」「購入素材だから」という判断は通用しにくく、思わぬ法的リスクにつながるケースもあり得ます。
トレースや参考資料の扱いに不安がある場合は、制作前の段階で判断することが重要です。
具体的なケースについては、当事務所までお気軽にご相談ください。